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言葉一つが及ぼす影響というものを了解した上で、今日の話を書こうと思う。
いま、これだけの人たちが亡くなっていって、毎日予期せぬ場所から次々と予期せぬ事故が起こり続け、被災地ではない人の大半が自分たちの無力さにうちひしがれている。 こんな状況下でいま、僕が思っていることは「生きたい」ではない。「誰かのためになりたい」「自分たちに出来ることは何だろう」である。日本人や世界中の人たちがこの成り行きを注目している。そんななか、距離の問題で送電ですらきない富山県は節電もからぶり、ただただ募金をしつづける、それしかできないおいてけぼりの一個人としての僕は、悪く言えば自分が役立たずということを認めたくないというだけなのかもしれない。こんないつどこで何がどうなって危険になるかわからない異常事態の中で、「生きたい」という本能ではなくて、「誰の為にもなれない」と無力さにうちひしがれている。なにもできないくせに、画面の向こう、あの山の向こうで知らない誰かが死んでしまうという恐怖と不安と悲痛さに涙ばかりこぼれて、ただ無事を願うばかりの弱さ。 実に身勝手で情けない。 今まででは考えられへんような金額を募金してみても、「経済を止めてはいけない」と言って毎日普通に仕事をしても、心が落ち着かない。 いま、360°色んな場所からチャリティーの企画やイベントの話が聞こえてくる。昨日も、一人の女の子が凄く辛そうな顔をしながら「私の作品を売ってチャリティー個展にしたい」と訪ねてきて来てくれたのを、心を鬼にして断った。 チャリティーの何か。やれるなら絶対にやるべきである、ぼくだってやりたい、やってほしい、やってあげたいし、やらせてほしい。 芸文ギャラリーゆかりの作家を集めて、チャリティー展だって考えた。しかし、この今その催しにどれだけの意味と浪費があるのか。 僕には今回その思いを止めてくれた恩師がいた。 作品を売って(あるいは安くして売って)、お金にして、現地へ送る。すばらしいとおもう、けど、作品を買った際に発生したお金である。心あるわけではない、何かしてあげたいという僕たちの行動の証を残しただけである。満足したいのである。買ってくれた人の心に、この歴史が刻まれることが本当にあるのだろうか。きれいごとか?金なら良いのか?なら募金が一番良い。 もちろん、してはいけないわけではないし、本当に心から気持ちを込めてそれぞれの『正義』のもとに動いた証であって、絶対に否定はしないし、すばらしいし、協力もしたい。 ただ、一個人ではなく、自分を社会の中の一つの役割として考えた場合、出来ることであっても、すべきことではない場合もある。 ギャラリーを営む立場としてのみ言えば、安くしたり、なりふり構わず出品した作品の売り上げをチャリティーとして送ることを企画するのは、作家やアーティスト、ギャラリーという存在に対し失礼であると考え直した。作家はその為に作品を作ってきたのではない。ギャラリーはその為に今まで文化活動をになってきたのではない。 恩師に教わった。たしかに、僕も阪神大震災の被害者であって、ばあちゃんの家も燃えてなくなった。この震災の傷跡は、1年や2年では消えない。一生涯抱えながら生きていかなければならない。 誤解と大反論を恐れずに言うと、ひどくえぐい手法に見えるかもしれないけど、あれだけの瓦礫と木片を拾ってきて、それをひとかけら数千円で売り、全額寄付すればどうなる?買った人にも、お金を送られた側にも、この歴史が刻まれる。 『傷跡』なんて生易しいものじゃない。今も尚、傷をえぐられているのだ。 復興が進んだ際、被災地の工芸作家は工房も仕事も失っているかもしれない。生きる希望がないかもしれない。たとえば、そんな彼らが少しでもまた作家として生きていける為に、作品を発表させてもらったり、僕たちが持ち得る全ての人脈・仕事・人を繋げたりする。作家が作家であることを尊重し、広く紹介する。彼ら達の仕事を絶やしてはいけない。 時間は今すぐにとはいかない。じれったい。スカした考えなのかもしれない。芸文ギャラリーという施設がすべき仕事は、いま作品をお金にして送ったり、イベントを開催することではない。 なにもできない。一個人として募金をし、ただただ無事を祈ることしかできない。歯を食いしばってその現実を耐え、僕たちの出番を待つ。 その判断が、全ての人に今ゆだねられている。 歴史が変わってから100時間が過ぎた。 たったこの4日間で、色んな人に与えられた課題と判断である。パフォーマティブな話題ばかりが取り上げられ、協力しないと総攻撃する、いわば魔女狩りのように身勝手な風潮も出始めている。 汚い言葉や弱過ぎる人も沢山見えたけど、なんか勝手に気がおおきくなっているのかもしれんけど、日本が好きやって、何故か思ってしまった。 なにもできない。一個人として募金をし、ただただ無事を祈ることしかできない。歯を食いしばってその現実を耐え、僕たちの出番を待つ。
by geibungallery
| 2011-03-16 00:45
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